恋?

 友人が彼女欲しいとか結婚したいみたいなことをわりと本気で言っていて,りあ充をわりと本気で嫉妬しているような態度を表明するたびに僕はとまどいを覚える.彼からすると,彼女なんて必要ないという悟りきった態度はありえないみたいな感じだけど,僕からすると,なんでみんなそんなに恋愛したいのかよくわからない.恋愛なんかしなくても素敵な午後はいくらでも見つかるし,彼女ができたからといってあらゆる問題が解決するわけじゃない.それに僕にとっては同棲というものは何かとてつもなくおぞましいもののように感じる.結婚してしまえば,孤独でいられる時間も,完全にプライベートな空間も消えてしまうのだとすれば,彼女なんていないほうがいいんじゃないか.というより,僕は性愛そのものが苦手なのかもしれない.誰もがそのひと固有の趣味とか好みを持っているはずなのに,たいていのひとは,彼女や彼氏がほしいという月並みな欲望も持っているという事実が気持ちわるい.とはいえもちろん個性という概念そのものが近代的なもので,実際のところ欲望や趣味にもある程度の普遍性があるのも知っている.睡眠欲や食欲,それからバシュラール九鬼周造が描きだす感性の地図.そういったものを没個性的だからといって切り捨てるというつもりにはなれない.じゃあ性愛はどうしていけないのか.それはけっきょく,性愛そのものは美しいものではありえないと僕が感じてるからだろう.性愛のイメージがいくら美しいものであるとしても.だから性愛は無条件に美しいと考えるひととはけっして分かり合えないのだろう.