近代ブンガク

 思えば私は近代日本ブンガクというものをほとんど読んだことがない.興味をほとんど感じなかったから,というのが主な理由で,それより古い文学作品にはわりと興味があってちょくちょく読んだりもするのだけど,近代日本ブンガクというと,海外に後れを取った時代のどうしようもなくつまらない作品群という印象しかない.もちろん,それらがしばしば,現代日本語の文体を形作った特権的なものとして語られるのは知っている.だから近代文学を読め! というのは作家志望の人への定番のアドバイスになってるのだけど,あまのじゃくな私はこのアドバイスにはかなり懐疑的だ.
 私は上記のとおり,近代日本ブンガクには詳しくないので,印象論になってしまうのだけど,近代ブンガクというのは文字通り,近代の文学であって,現代性は既に失われてるものがほとんどのように思う.してみると,近代ブンガクを読むことは自らの立ち位置を確認することにはつながっても,創作の役に立つことはあまりないように感じる.
 現代性の問題ではない,文体が優れているのだ,という意見もあるだろう.が,これに対しても私はいささか懐疑的だ.というのは私が読んだ範囲内では近代ブンガクの文体というのは,あまり現代っぽくないというのを措くにしても,たいていは平均的な現代小説よりはいくぶんか優れているだけで,散文詩のような強度を持ったものはほとんど見受けられなかったからだ.
 というわけで,近代ブンガクは,現代的な文体とは違ったオルタナティヴな文体を模索するのには役立つかもしれないけれど,たとえばエンタメ作家志望の人がそこまでありがたがるべきようなものではないだろう,というのが私の印象である.