ポモポモ

 ユリシーズを読み返してると,登場人物が教養に溢れていて,世界がこれくらい豊かだったらいいのに,という気分になった.もちろん,当時のダブリンの衛生はとても悪かったのは知っているし,世界は今よりもずっと偏見だらけだったことも知っている.けれども当時は,今みたいに,みんなが伝統的な人文教養を軽視するような時代ではなかったはずで,趣味もそんなに多様なわけでもなく,育ちのいい人ならみんな,文学や思想,政治について語るべきことを持っていたと思う.
 現代社会における一般人の知性溢れる会話というと,せいぜいが保坂和志の季節の記憶のようなものが限界という気がする.学部時代の友達のほとんどは,文学や思想には興味は無かったのでインテリっぽい話はできなかったし,僕自身,そんなに教養があるわけでもない.自分の専門以外はほとんど何も知らない人々.それは必ずしも無関心のせいというわけではなく,現代人には時間がない上に,知るべきことが多すぎるからでもあるだろう.
 これからは「教養」そのものがますます多様化していって,教養ある人間どうしでも通じる話は少なくなっていくのだろうけれど,豊かな文化というのは教養ある無数の人々によって築き上げられるものなのは変わらないはずで,そう考えると教養にはぜひともリバイバルしてもらいたいものだ.そのためにみんなが余裕を持って生きられる社会が来てほしいと思う.